- 相続が発生する前にご相談になりたいあなたは、将来発生するであろう相続に対して、漠然とした不安を感じているか、または、遺言書の作成に興味があるかのどちらかだと思います。以下、あなたに当てはまる部分をお読み頂ければ幸いです。
(1)相続発生前のご相談
1 遺言書の作成について
- 遺言の種類
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言や、特別方式の遺言などがあります。
自筆証書遺言 | 全文を自筆で書く方式 |
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公正証書遺言 | 公証人役場で公証人に遺言の内容を伝えて遺言書を作成してもらう方式 |
秘密証書遺言 | 自筆で書いた遺言を封印し、公証人により封印を確認してもらう方式 |
いきなり公正証書遺言を作成するということに心理的な抵抗がある場合には、まず手始めに、自筆証書遺言の作成から始めてみるというのもオススメです。ただし、自筆証書遺言についても、法律上有効となる要件が厳格に定められているほか、後々偽造や変造を主張されて争いに発展する可能性が否定できませんので、できれば公正証書遺言を作成された方が紛争防止には効果的といえます。
もし、複数の遺言がある場合には、遺言の日付けの新しいものが有効となりますので、前に作成した遺言の内容を変更したい場合には、なるべく早めに新たな内容の遺言を作成する必要があります。
また、遺言の内容に反する行為を遺言者が生前に行っていた場合には、遺言者は、遺言の内容を実現する意思がなかったことになりますから、その部分に関する遺言は撤回されたことになります。
- 遺言の内容について
遺言の内容は、大きく分けると、「相続させる遺言」と「相続分の指定」に分けられます。
「相続させる遺言」とは… 例えば、「長男Aに自宅の土地・建物を相続させる」といった特定の遺産を特定の相続人に相続させるという内容が記載された遺言をいいます。
この場合、「相続させる」とされた遺産は、遺産分割の対象とならず、「相続させる」とされた相続人がすべて取得することとなります。- つまり、被相続人の全ての財産について「相続させる遺言」がなされていた場合には、「相続させる」とされた相続人が全ての遺産を取得することになります。
また、「全ての遺産を次男Bに相続させる」などという他の相続人の法定相続分を侵害する内容の遺言がなされることもありますが、その場合には、相続分を侵害された相続人のために遺留分という制度があります
・遺留分とは…一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限の遺産取得分のことです。
民法では、被相続人と関係のある人を法定相続人と定めて遺産相続をさせることにより、なるべく被相続人に近かった人が多くの遺産を引き継げるように配慮していますが、その一方で、被相続人自身が遺言や贈与によって財産を処分する自由も認めています。
しかし、完全に自由な処分を認めてしまうと、相続人の生活を維持する保証が失われたり、被相続人の形成した財産には家族の協力によって得られた物もあるはずと言う観点から、法律は、一定の範囲の相続人に対して遺留分を認めたのです。被相続人の利益と相続人の保護のバランスをとったものが遺留分ということになります。
「相続分の指定」とは… 例えば,「長男A、次男B、三男Cの相続分を各3分の1ずつにする」や「長男Aに50%、次男Bに30%、三男Cに20%を与える」のように、 遺言によって、相続人のすべて、または一部の者について法定相続分の割合とは異なった割合で相続分を定めること、またはこれを定めることを第三者に委託することをいいます。(民法902条)
遺言書において法定相続分とは異なる割合で相続することが記載されていた場合には、法定相続分ではなく、遺言に記載された割合によって相続がなされることになります。
しかし、「相続分の指定」がなされた場合には、具体的な財産を誰が相続するかということを定めていませんので、指定された相続分に従って遺産分割がなされることになります。
また、指定された相続分が個々の法定相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分を侵害された法定相続人が遺留分侵害額請求を行うことができるのは「相続させる遺言」の場合と同様です。
- 遺言書作成のポイント
遺言書作成にはいくつかの方法がありますが、相続発生後のトラブルを防止するためには、公正証書遺言が一番オススメです。公正証書遺言は作成する際に、公証人役場で作成する必要があり、作成費用がかかりますが、遺言が偽造されたとか、変造されたとかのトラブルの発生を防止できるメリットが大きいからです。
ただし、公証人のほかに、証人2名が必要となり、ご自身の遺言内容を他人に説明しなければならない心理的負担は決して小さくありませんから、どうしても公正証書作成には抵抗があるという場合には、自筆証書遺言でも構わないと思います。なお、自筆証書遺言について、財産目録が自筆でなくともよくなるなど、平成30年度の法改正で作成がしやすくなりました。(法務省HP 「自筆証書遺言に関するルールが変わります」を参照)
最後に、遺言を作成する場合には、遺産を受け取った相続人が負担することになる相続税についても配慮する必要があることを是非忘れないで欲しいと思っています。たとえば、特定の相続人に家を継いで欲しいという思いで、不動産だけを相続させるという遺言を作成してしまうと、その相続人は不動産だけを受け取ることになってしまい、その結果、相続税を支払うために不動産を手放さなければならなくなってしまうことがあるからです。
遺言書を作成するうえで、内容を確認し、相談、協力できる弁護士はあなたの心強い味方になります。例えば遺留分の取り決めが各相続人にとって不十分だったりすると、自分の考えたとおりの相続が行われない可能性もあります。そうならないためにも、弁護士に自分の思いや考えを相談した上で、遺言の内容を確定したほうがいいでしょう。
また、遺言どおりに財産を分けるためには、遺言執行者を選任しておくのが大切です。そして、遺言執行の内容が複雑な場合や紛争が生じる恐れがある場合、弁護士を遺言執行者にするのが最も安心です。